東京2020へ向けて
リオデジャネイロオリンピックで自分の上にいる7人にどうやって勝つか、ということを常に考えています。
まずは相手を知ることが大事なので、その7人のチームに行き、練習や生活を共にして、相手がどのような人間なのか、探ろうと思いました。
自分よりもどこが優れていて、逆に自分が優れている点はどこなのか。
今シーズンは、そうしたことを探っていた1年でした。
多くの選手はオリンピックをゴールに考えていることが多いですが、実はその先、その後の自分をイメージして今から考えなければ、スケールアップを果たせません。
子どもの頃、小学校の卒業文集に“将来、オリンピック選手になりたいです”と書く人は多いと思いますが、高校生や大学生になったとき、なぜその競技をやっているのか、また水泳を続けた先に何があるのか、ということを自分でよく考えることが大切だと思います。
これからの選手には、そういうところをよく考えてほしいです。
自ら“レアカード”になる重要性
今では日本国内でもオリンピックメダリストは山ほど存在しますが、その中で“レアカード”になることが重要だと感じています。
私が高校3年のインターハイ(日本高等学校選手権)で、400m自由形で優勝したときに将来は400m自由形でロンドンオリンピックを目指そうと考えました。
けれど、世界には優秀な選手が大勢いるから埋もれてしまうな、と思っていた大学時代にOWSと出合いました。
もしロンドンオリンピックにOWSで出場できれば、日本人初のレアカードになる、と思ったわけです。
私にとって、水泳は自分を高める手段。大事なことは、自分が今なぜこれをやっているのか、そしてなぜ泳ぎ続けているのか、ということを常によく考えているかどうかです。
日本の選手と海外の選手について
日本社会で生きていると、感情をあまり表に出さないほうが美徳とされていますが、やはり世界で戦うには、自分の意思を伝えることが大切です。
例えば練習のときにも、コーチと対等に話す。師匠と弟子ではなく、フラットな関係で、自分が言いたいことを相手に伝える、ということに気をつけています。
競泳は、レーンに仕切られているのでほぼ自分の泳ぎにだけ集中できますが、OWSは人とのコンタクト競技。
体がぶつかり合いますが、ライバルたちと友達になっていればファールされる(ぶつかってくる)確率も減ります。
経験を積むことで、同じ10㎞でも日本で戦うのと世界で戦うのとでは中身がまったく違うこともわかりました。
世界大会へ遠征した際、日本人同士で固まって行動していると情報を得られず、海外の選手とコミュニケーションも取れません。
まずは自分から輪を広げる努力が大切です。
また、若い選手には5年後の自分を考えて競技生活をするべきだとも思います。
なんとなく東京オリンピックがあり、それまでの過程でなんとなくOWSの大会で入賞する、ということではなく、世界に出て戦うためのレールを自分で切り開いていくことが大切です。
少なくとも、他人に意思決定を委ねてしまうようなことは避けるべきでしょう。
オフの過ごし方
もちろん体を休めますが、常にどのようなときもオリンピックのことを考えているので、完全なオフはありません。
オフのときに意識しているのは、どれだけ水泳の世界から飛び出して、違う分野の人や同世代の他業種で活躍している人と交流できるか、ということ。
彼らが成功した理由や失敗から這い上がったプロセスを聞き、自分に応用できないかを考える。
どれだけ人と関われるかをとても大切にしています。
海外にいるときは街に出て、カフェや洋服屋で初対面の人に話しかけます。
そうすれば言葉も上達してリフレッシュもできる。
こうしてオン・オフの切り替えをしています。
競技生活で大事なこと
私は2013年からリオオリンピックまでの期間、オーストラリアをベースに生活していました。
そこでは自分で家を借り、何でも自分でやらなければなりません。
そうしたときに、日本代表としてオリンピックを目指して頑張っていることを現地の方々に伝えると、多くの方々が協力してくれています。
その方々へ試合の結果を欠かさずに報告していると、やがて友達以上の関係になることもあるんです。
去年のオリンピック終了後、当時トレーニングをしていたボンド大学へお礼をしに行くと、大学のスポーツセンターで自由に使えるパスを私にプレゼントしてくれました。
大変うれしいことですよね!!
違う国の人間に、いつでも練習していいよ、と言ってくれる。
こうした人との豊かな付き合いが大事ではないでしょうか。
競技生活を通じて、自分の人生をいかに豊かにデザインしていけるかが、最も大切なことだと思います。
将来のプラン
将来やりたいと思っているのが、点と点を線にするような活動です。
今の日本でのOWSの大会は体育の試合のようですが、私が遠征で行った海外の大会は、まるで野外音楽フェスティバルのような感じです。
例えば、ある家族のお父さんがOWSに出場するとしたら、会場の海のすぐ近くでステージライブがあって、子どもたちが楽しめる。
次もまたお父さんの試合について行きたくなる。
ついて行くにつれて、初めはライブを聞きに来ていたつもりが、OWSっておもしろそうだな、と思う子どもたちが増えるかもしれない。
その逆もしかりで、そこで聞いた音楽でテンションが上がり、いいパフォーマンスで泳げたから、そのアーティストの音源を買おう、ということも起こる。
これは、点と点を線にした、ということだと思うんです。
今のスポーツ界には、点と点を線にするアイデアを持っている人があまり見受けられないと思います。
そうした視点でOWSを発展させることができれば、もっと楽しいものになるのではないでしょうか。
私は引退したら、OWSや水泳に限らず、さまざまな分野で、点と点を線に変えていけるような事業をしたいですね。
平井 康翔(ひらい やすなり)
所属:SBIホールディングス
生年月日:1990年4月2日
(2017年 第93回 日本選手権水泳競技大会 オープンウォータースイミング競技 インタビュー時)
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